K@はぐれ医師の徒然日記

書評や日々の出来事など

書評 「そのとき、日本は何人養える?: 食料安全保障から考える社会のしくみ」

孫氏が戦には兵站が重要であると説いた様に、食料安全保障は国民の生命に関わる問題である。日本が食料やエネルギーを一切輸入しなければ3000万人しか食べることができず、残りは餓死してしまうという報告は衝撃だった。

農業の繁栄は非農業部門がいかに潤うかにかかっているという点がポイントかと思う。
農家が潤うためには消費者がある程度裕福で、それなりの値段で農作物を購入しないといけない。農業以外の産業で日本が裕福になり、もっと中間層が増えることが望ましい。一方でフードロスを減らすために余った食べ物を無料で配布することは、ダンピングにあたり、不当に農作物の値段を下げてしまう。この指摘も目から鱗だった。フードロスはいわゆる安全余裕にあたり、ある程度は許容するべきである。

また農作物をつくるためには化学肥料(ハーバーボッシュ法)やトラクターを用いるため、米1kcalを作るのに必要なエネルギーは2.6kcalであり、米は石油で出来ているといっても過言ではない。食糧問題はエネルギー問題でもあるということも初めて知った。

日本が海外に誇れるもの、アニメやエンターテイメントも輸出産業になり得る。そのような強みを活かして日本全体が潤うこと、しかし単に消費が増えて潤うだけでは環境問題を悪化させる可能性があり、「小消耗型消費」を目指すべきであることなども納得のいく説明だった。
兌換紙幣、ペドロダラー、石油に代わる新しいエネルギー(核融合、重力蓄電)などの蘊蓄を知ることができたのも楽しい。結局、食料安全保障には農業だけでなく経済、地政学、科学など様々な分野に精通して多元的な観点を持つことが必要。解決への道が隘路であっても楽しみながら模索するべしということを感じた。

筆者のことはツイッターで知り、色々な事柄に対して鋭い着眼点を持っていて面白い人だと思っていたが、この本にも、その多面的な考え方が反映されており、興味深く読むことができた。

 

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書評 「すべては導かれている 逆境を越え、人生を拓く 五つの覚悟 田坂 広志」

全ては大いなる何かに導かれている、と捉えることにより
過去の失敗や挫折も自分の成長に必要だったと解釈することができる。

過去への後悔や未来への不安にエネルギーを使わず、今というこの瞬間を精一杯生ききる。
言うは易く行うは難しですが、とても大切な真理だと思います。

時間や空間を超えた不思議なつながり(シンクロニシティコンステレーション)を量子真空との繋がりで科学的に説明しようという試みは面白い。深い世界とつながるために、とにかく負の想念を持たないことが重要という指摘が個人的には一番刺さりました。

5つの覚悟を持つことにより、不思議な力を手にし、逆境を超え「客観的な成功」が手に入るという解釈をするべきではないと思います。懸命に使命を果たそうと努力し、死ぬときに「これでよかったのだ」と思えたらそれが自分なりの成功なのではないでしょうか。

 

すべては導かれている 逆境を越え、人生を拓く 五つの覚悟 (PHP文庫) | 田坂 広志 |本 | 通販 | Amazon

書評 嫌われる勇気

タイトルはキャッチーですが、非常に納得感のある内容でした。

嫌われる勇気とは、嫌われることを恐れず横暴に振る舞えという意味ではありません。
自分の人生を生きるためには他者との軋轢が避けられないこともあるという意味です。
私たちは他者の期待に応えるためや承認を得るために生きているわけではありません。

ではアドラーはひとりで自由に生きることを推奨しているのでしょうか?
それは違います。ひとりの人間として自立し、社会と調和することを目標としています。
自分の生き方を大事にする一方で、共同体感覚(他者を信頼し仲間であるとみなす)を身に着け、他者貢献をすることが幸福の秘訣だと言います。

人生は他者との競争ではないし、人間に上下はない。横のつながりを作り対等な人間関係を形成する。狭いコミュニティーの中で上手くいかなくても、より広い共同体にでればコップの中の嵐はそよ風に変わる。

過去も未来もない。「いま、ここ」に強烈にスポットライトを当て生きることによって刹那を積み重ねていく=エネルゲイア的な生き方こそが人生であるという考えは、仏教や「Dark-Horse・トッドローズ著」で言及されている充足感にも共通する部分があると感じました。

人生は今この瞬間から変えていける。誰もが幸福になることができる。他者は敵ではなく、貢献する価値のある仲間であると考えを変えることができ、息苦しい人生から救われました。

書評 マスク社会が危ない 子どもの発達に「毎日マスク」はどう影響するか?

マスクで口元を覆って身体的な接触を極端に減らす、会話もしないという愚策をいつまで子供に強要するのか、、大問題だと思っていました。筆者が仰るように子供の脳は発育途上であり、人の表情を読み取る能力は未完成です。心身ともに発育していく段階で、友人の顔もわからず、会話することも触れ合うことも制限されていては、いびつな影響を及ぼしそうな気がします。

このようにマスクを手放しに賞賛するのではなく、マスク着用によるデメリットも考慮しようよ!と声を上げる学者が現れたことを心強く感じます。

子供をもつ親や、子供に関わる全ての人に読んでもらいたいです。

書評 鴻上尚史のほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋 |

派手な服装で浮いてしまった帰国子女の娘の相談が一番印象に残りました。

鴻上さんは日本の問題点を「同調圧力の強さ」と「自尊心の低さ」と指摘します。
これは戦時中から続いている問題で特攻隊が最たる例だとのこと。
現代の感覚から言えば、自爆特攻などは狂気の沙汰ですが、当時は抗うことができない同調圧力だったのでしょう。

自分はこの同調圧力が大嫌いで、権威と喧嘩したり、いつも組織に馴染めないと感じていましたので、同じ問題意識を有している著者の本に出会えたのは幸いでした

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書評 「多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織 マシューサイド」

なんとなく多様性って大事だよね、、という程度の認識だったが、多様性に対する解像度が劇的に上がった。

どれだけの天才であっても1人の人間の能力には限界がある。また同質の天才を集めても多角的な観点を持つことができず、死角が生じる。さらに性質の悪いことに同質の人間同士では、異論が生まれない為、自分たちの意見を正しいと過信してしまう。
複雑な問題に対処するためには、単に人口統計的に多様な人材を集めればよいというわけではなく、異なる視点をもつ(=認知的多様性がある)エキスパートを集めることが重要だという点がこの本の核心だと思った。(認知的多様性あってもずぶの素人では役に立たない。)

しかし認知的多様性のある集団であっても、うまく機能しない場合がある。それはヒエラルキーが下の人間の意見を黙殺する集団である。このような集団を支配型ヒエラルキーという。
それと対極に位置するのが尊敬型ヒエラルキーである。尊敬型ヒエラルキーで形成される集団は、リーダーに対する敬愛でつながっており、どの階層に位置する者の意見であっても尊重される。
このような組織は心理的安全性が担保されており、「反逆のアイデア」が生み出されやすい。。

またイノベーションが移民の多角的な視点、前提を疑う考え方から生じるという意見は「RANGE(デイビット・エブスタイン著)」でも指摘されており、欧米の科学者はお互いに影響しあって、ある程度の共通の認識があるのだと感じた。

栄養に関する画一的なガイドラインが個々の多様性(マイクロバイオーム、遺伝子など)を無視しているという点は医師として興味深かったし、ホモサピエンスネアンデルタール人に勝った要因は社交性であるという指摘は「サピエンス全史」の「共同幻想」のことであるとか、集団が共有する「集合知」は「知ってるつもり 無知の科学」でいうところの認知的分業であるとか、これまでの知識がリンクして知的興奮が得られた。